Gilletteとジェンナーロ・ホットドッグ

Gillette and Gennaro Hot Dog — Gillette Structure, chapter 08

Gillette、構造 · 日本語版  ·  No. 08

Gilletteとジェンナーロ・ホットドッグ

Gillette Trailer 18 — 書記ナンド


まだ1ドル。

バスを降り、住むことになっている住所へ向かって歩きはじめた。

イタリア人の口から出るアメリカ訛りは、どこかおかしく響いた。

汗をかいていた。

自分が汚い気がした。

早朝のマンハッタンは本当のことを言う。

清掃車はまだ通っていなかった。

通りには前の晩の匂いがまだ残っていた。

たいていの人なら、吐き気のする匂いだろう。

私には、わが家の匂いだった。

ここに着くまで61年かかった。

悪いのはFedEx提携のコウノトリだ。配達をまちがえて、私を南イタリアに落としていった。宛先ちがい。

いま、体がようやく心に追いつこうとしていた。

ニューヨークは黙って私を待っていた。

そのとき、見えた。

ホットドッグの屋台。

その瞬間にわかった。わが家に着いたのだ。

近づいていった。店主は年寄りだった。イタリア人。ナポリの出。完璧だ。

彼はすぐさま一芝居打ちはじめた。

「もう疲れた」

「もう歳だ」

「金はない」

「子どもが多すぎる」

「この商売、売っちまいたい」

私は遮った。「屋台はいくらだ?」

彼は私をじっと見た。「金の話の前に……あんたがいったい何者なのか、言ってくれ」

もっともだ。コーヒーを飲みに行った。それから昼飯。それからまた話。何時間も過ぎたが、彼は一度も時計を見なかった。

あるとき私は笑って言った。「アメリカじゃ、時は金なりっていつも言うだろう」

彼は笑った。「いいや」それからまっすぐ私を見た。「時の次は……心が金なり、だ」

二人とも笑った。だが冗談ではないと、すぐにわかった。

翌朝、市庁舎で落ち合った。彼は妻を連れてきた。それから娘。それから妹。それから義理の妹。こうなるともう商取引というより、私がこの一家に婿入りするようだった。

屋台にいくら欲しいのか、まだ見当もつかなかった。現金で3万5000ドルを用意してあった。足りることを願った。

すべてに署名が済んだ。完了。

すると彼は私を見て言った。「金はいくら持ってる?」

私は、賢い人間が危ない質問に答えるやり方で答えた。「わからない。数えていないんだ。いくら払えばいいか、それだけ言ってくれ」

彼は微笑んだ。「1ドルだ」

沈黙。誰も動かなかった。誰も口をきかなかった。

それから彼は言った。「アメリカへようこそ」

その日私は、たいていの人が一生わからないことを学んだ。

商売を売る男がいる。遺産を引き渡す男もいる。

最初の1年、私はホットドッグをすべて1ドルで売った。

敬意から。記憶のために。

買うことのできない男がいるからだ。できるのは、敬うことだけ。


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