Gilletteの遺伝

Gilletteの遺伝 — Gillette、欠けたピース 第17章

Gillette、欠けたピース · 日本語版  ·  No. 17

Gilletteの遺伝

起源


心の十の部屋

誰もが、自分で選んだわけでもないのに住んでいる家がある。

住所はない。どの地図にも載っていない。それでも、実際に暮らしたどんな場所よりもよく知っている。なかには十の扉がある。

気づかないまま、毎日開けている扉もある。

自分には関係ないというふりをして、鍵をかけたままの扉もある。

そして、自分で建てたわけではないのに、なぜか内に抱えている部屋もある。これは理論ではない。

棚でほこりをかぶっている心理学の手引書でもない。

この十の部屋をひとつずつ、たいていは自分がどこにいるのかも知らずに通り抜け、いま、肩にいくらか歳月を重ねて、体験したとおりに描こうとしている一人の男の記録だ。

十の扉。

私はすべて開けた。

あるものは好奇心から。

あるものは渋々。

もう引き返せなくなってから、ようやく開けたものもある。

これらの部屋に見覚えがあるとしたら、それが私の物語を語っているからではない。

どこか深いところで、あなたの物語をも語っているからだ。

フェルディナンド

遺伝 — 起源

鏡をのぞきこんだ。

自分を見ているつもりだった。

やがて、別のものが見えはじめた。

父。

祖父。

二人の沈黙。

二人の頑固さ。

二人の恐れ。

二人の規律。

だが、私はひとつ過ちを犯した。

母を探すことに、十分な時間をかけなかった。

私をこの世に産んでくれた女性を。

母を、自分の顔の中にしか探さなかった。

遺伝とは、棚のない図書館だ。

肉体に書きこまれた記録庫。

どの身ぶりにも痕跡がある。

どの反応にも記憶が保たれている。

私たちは、自分では戦ったことのない戦いを抱えている。

教わった覚えのない恐れを。

どこから来たのか説明のつかない強さを。

私たちは決して、絶対的な始まりではない。

連続だ。

自分の名前よりはるかに大きな物語の、次の章だ。

やがて、あることが分かった。

いちばん大切な遺産は、顔立ちに書かれていたのではなかった。

目にではない。

顔の形にでもない。

行いに書かれていた。

困難に向き合う、あの静かなやり方に。

音を立てずに耐える力に。

そしてそこに、ようやく母が見えはじめた。

鏡の中にではない。

世間に触れまわることなく、屈しないと決めたそのたびに。


フェルディナンド

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