借りものの顔

借りものの顔 — Gillette、患者のサーガ 第11章

Gillette、患者のサーガ · 日本語版  ·  No. 11

借りものの顔

認知の小休止


自分自身になる前に、私たちはほかのみんなになる。

親。

教師。

友人。

上司。

伴侶。

世界はアイデンティティに関しては気前がいい。

こうなるべきだという既製の型を、何千と差し出してくる。

よい息子。

まっとうな男。

成功した職業人。

頼れる夫。

見返りははっきりしている。

承認。

評価。

居場所。

代償のほうは見えにくい。

距離だ。

自分という人間と、演じている人間とのあいだの距離。

若いころ、演技は成功と驚くほどよく似て見えた。

順応することを覚えた。

なじむことを。

どの部屋でも、そこで期待される言葉を話すことを。

それは生涯を通じて、いくつもの扉を開いてくれた能力だった。

だが、借りものの顔にはどれも、小さな借金がついてきた。

本当の自分で払う借金。

ひとかけらずつ。

劇的なことは何もない。

破局もない。

浸食は静かに進んだ。

水が石の形を変えていくように。

歳月が確信の形を変えていくように。

振り返ってみて分かる。たいていの人は、失敗に囚われているのではない。

成功に囚われているのだ。

成功は、間違った道を捨てにくくする。

拍手が証拠になる。

業績が証明になる。

役割がアイデンティティになる。

そしてついには、仮面のほうが、それをかぶっている人間よりも手厚く世話されるようになる。

その気づきは、突然やって来たのではない。

かけらになってやって来た。

何年もかけて。

いくつもの国をまたいで。

いくつもの関係をまたいで。

長い沈黙の時期をまたいで。

だが、土台はずっと前に築かれていた。

他人が必要とするものになりさえすれば受け入れてもらえる。そう覚えた、あの最初の年月に築かれたのだ。

世界は拍手した。

仮面は栄えた。

顔は待った。

辛抱強く。

自分が語る番を。


フェルディナンド

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