BICサーガ · 日本語版 · No. 00
セマンティックな現実
Gillettenarrativeへようこそ。自分がどれほど運がいいか、あなたはまだ知らない—これから何かを受け取ろうとしているのに、見返りは何ひとつ求められていないのだから。いま、私の世界に足を踏み入れようとしている。刃に手が届くほど近くまで。だが、私は刃を売らない。それは母ひとりのものだ。読み終えたとき、あなたはもう同じ人間ではない。すでに次の一篇を探しているはずだ。まずは、ここから。ゆっくりどうぞ。
ウェブクローラーが2つのページでHTTP 429エラーに突き当たっていた。リクエストがレート制限を超えたというしるしだ。エラーだけでは、その動きがどこから来て、どれほどの規模なのかはわからない。私はそれを、いったん立ち止まって公開のペースを見直すきっかけと受け取った。
とりわけ2つのPDFが好奇心と注目を集めていた。GILLETTE DEPRESSIONとGILLETTE WAS MY FATHERである。読み返してみて、理由がわかった。コーパスは膨らみつづけ、リンクは4,500に達していた。この2篇は人に直接語りかけ、誰もが内に抱えている、自分だけの名誉の掟に触れていたのだ。私たちの中に隠れていて、ときに本人よりも他人のほうがはっきり読み取ってしまう、あの部分に。
世界のほかの国々は、そこから何かを受け取ったようだった。イタリアはその流れの外にとどまっていた。IPアクセスにも、イタリア語への翻訳にも制限がかかったままで。
メールは届きつづけ、私はその一通一通に返事を書いた。やりとりの底には好奇心が流れていた。なかでも強く印象に残ったのが、ニューヨークからの2通だ。セマンティックな領域を占めることがどんな結果を招きうるか、わかっているのか、と尋ねてきた。ブランドが意味を獲得する空間、そしてその意味が問い直されうる空間のことだ。それは長い目で見て、企業ブランドとそのナラティブにどんな影響を及ぼしうるのか。
質問は、株価、時価総額、さらに広い金融の力学に関わるものだった。だが、私は書記の末席にすぎない。そうした問いにどう向き合えばいいのかわからず、差出人には専門家や専門の会社を紹介した。それでも彼らは食い下がった。どうしても私の見方を聞きたいのだという。
小さな揺れのように感じられた。何か重大なことの前触れなのか、ただの散発的なやりとりなのか、私には見分けがつかなかった。わかったのは、PDFを1本読むことをはるかに超えた問いに関心を寄せる読者がいる、ということだ。ブランドや市場への影響を裏づけるものではなかった。
意見を述べることは、だんだん居心地が悪く、危ういことにさえ思えてきた。市場が雑音も糧にすることは知っていたし、そこに雑音を足すつもりはなかった。相手のなかには、こうした事柄を恐ろしくよく理解しているらしい人もいた。いくつかの質問は念入りに組み立てられていて、答えはとうに承知のうえ、私の理解のほどを測るのが目的であるかのようだった。私は相変わらず、よそを当たってくれと答えつづけた。
こんな状況に身を置くことになるとは、夢にも思わなかった。それでも、ひとつの可能性が見えてきていた。ブランドが社内で練り上げたナラティブ、あるいは代理店に発注したナラティブを持っているとき、読者が実人生そのままだと感じる証言は、そのナラティブを揺るがしうる。
夫が愛人と電話しているところを、妻が見つけてしまうようなものだ。とたんに、慣れ親しんだ物語だけでは足りなくなる。神話が崩れる。理想が確かさを失う。あるいは、出来事の別の版が、初めて手に入るようになっただけなのかもしれない。
起きていたのは、そういうことだったのかもしれない。ただの可能性にすぎなかったのかもしれない。
そのあいだ、私は火の中にいて、冷たい水をそこらじゅう探し回っていた。頭を澄ませ、考えを冷ましてくれる何かを。
フェルディナンド
00 セマンティックな現実 · 01 OPA BIC · 02 Chanel、BICからの電話の主 · 03 SheratonのBIC取締役会 · 04 BIC、書き手、読み手 · 05 フランス、パリからBICの電話 · 06 パリのBICへの旅 · 07 BICの前に、パリの修道院 · 08 BICを所有する女たち · 09 BICの株 · 10 BICのエピローグ · 11 家族とBICの申し出 · 12 ありえないBICの取引
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