レディ・Wilkinson Sword

レディ・Wilkinson Sword — Wilkinsonサーガ 第08章

Wilkinsonサーガ · 日本語版  ·  No. 08

レディ・Wilkinson Sword


人生は、いくつもの機会の寄せ集めなどではない。

人生とは、二度とは来ないただひとつの機会だ。

私にとっては、そうだった。

儀礼と伝統をイングランド連合グランドロッジに認められたイタリアのフリーメイソンに身を置いていたころ、私は、いささか風変わりな集まりに加わる機会を得た。

すでに第三階級にあったが、ふさわしい心構えで臨んだ。徒弟の心構えである。

儀式の集会ではなかった。

エプロンもなく、象徴もなく、暗記すべき言葉もなかった。

ただの晩餐だった。

ロンドンでの晩餐。

過ごしているあいだは平凡に見え、何年もたってようやくその意味がわかったときに初めて特別なものになる、そういう夜のひとつだった。

ロンドンには、いつもの魅力があった。

どの建物からも、歴史が顔をのぞかせているようだった。

王冠。

シティ。

会員制のクラブ。

制度。

それをつくった人間たちよりも長く生き延びる伝統。

Gilletteでのそれまでの職業経験を通じて、そしてそういう場所で、私はほとんど偶然に、自分よりはるかに古い物語に出会った。

フリーメイソンのものではない物語。

ビジネスのものでもなかった。

イングランドのものだった。

その名はWilkinson Sword。

いや、こう呼ぶほうが正確かもしれない。

レディ・Wilkinson Sword。

利益を生む会社がある。

歴史をつくる会社がある。

彼女は、その両方をやってのけていた。

訛りは英国のもの、物腰は優雅、趣味は洗練されていた。

背負ってきた歳月の向こうから、微笑んでいた。

もう若くないことは、自分でわかっていた。

若さの軽やかさは失っていたが、頭の冴えは失っていなかった。

知性は相変わらず強かった。

考えは相変わらず鋭かった。

私に話しかけるときはいつも、暖炉のそばで喉を鳴らす老猫のような、ほとんどロマンチックと言っていい調子で、そして私の名前を決まって少しだけ間違えて発音した。

「フェルナンド…」

紹介など、一度も必要としなかった。

部屋に入ってくるだけでよかった。

歴史の重みを身にまとっていた。

戦争を、王たちを、女王たちを、産業革命を、買収を、取締役会を生き抜いてきた。

男たちが金持ちになるのを見てきた。

帝国が消えていくのを見てきた。

自分は不死身だと信じ込んだ経営者たちを見てきた。

それでも、彼女はまだそこにいた。

優雅に。

静かに。

英国的に。

そのとき私は悟った。会社などではまったくない会社がある、と。

それは制度なのだ。

株主のものである会社がある。

歴史のものである会社がある。

レディ・Wilkinson Swordは、後者だった。

そして私もまた、ほんの少しだけ、彼女のものになりはじめていた。


フェルディナンド

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